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学校心臓検診での心雑音・心電図異常【循環器専門医が解説】

日本では、1995年以降、学校検診の一環として、校医の先生の診察に加え、小学校、中学校、高校の1年生全員に心電図検査が義務付けられています。

これは、心疾患の早期発見や、突然死を起こしうる不整脈をスクリーニングする目的で行われています。そして、聴診や心電図検査などで異常をみとめた場合には、必要に応じて、(運動負荷)心電図、胸部レントゲン、心エコー検査、さらにホルター心電図などのさらに詳しい検査が行われます。それでは、具体的にはどのような異常があるのでしょうか?

心電図の異常

期外収縮

大人の方でも、「脈がとぶ」という症状で最も多い不整脈です。心臓は、洞結節というところから定期的に電気的な信号(興奮)がでて、その電気信号が心臓全体に伝わって収縮します。期外収縮は、この洞結節以外のところから電気信号がでることで、正しいリズムとは違った時に心臓が収縮します。

ほとんどの方で、1日に何回かは期外収縮がでており、心電図検査を受けた数十秒の間にたまたま期外収縮がでてしまっただけ、ということも珍しくありません。

一方で、

1)連続してでる期外収縮

2)波形の異なる期外収縮

3)運動などで心臓に負荷がかかった時に増える期外収縮

注意が必要です。

精密検査では、ホルター心電図で1日の期外収縮の種類や数、時間ごとの出現頻度を確認したり、必要に応じて心エコーや運動負荷心電図を行います。

こちらのページは、大人の方の期外収縮についてのページですが、よろしければ、ご覧ください。

不完全右脚ブロック

心臓の電気信号は、洞結節→房室結節→ヒス束→右脚・左脚→右心室・左心室の順で心臓の中を伝わります。この右脚の電気信号の伝導が遅いことを、右脚ブロックといい、その程度によって、完全右脚ブロック不完全右脚ブロックに分けられます。左脚の伝導が悪い場合は左脚ブロックといいます。

完全右脚ブロックとなっても、電気信号は左脚を通じて左室に伝わり、そこから右室に伝わりますので、心臓はきちんと収縮するため問題ありません。

しかしながら、不完全右脚ブロックの方では心房中隔欠損症であることがありますので、心エコーで検査をする必要があります。

※心房中隔欠損症とは、右心房と左心房を隔てている心房中隔に穴が空いている状態です。聴診で雑音があることもありますが、穴の大きさによっては雑音が聞こえにくいこともあります。

QT延長

心電図は、P,Q,R,S,T波から構成されています。

QT間隔とはQ波の始まりからT波の終わりまでの時間を指します。具体的には、心筋の収縮の開始(心筋の脱分極)から収縮の終了(心筋の再分極)までの時間を表しています。

この心筋の収縮開始から終了までの間(心筋の脱分極から再分極までの間)は、心筋が電気的に不安定となっており、この期間が長いと危険な不整脈がでやすくなります。そのため、QT間隔の長い、QT延長症候群の方では、若くして運動時などに危険な不整脈(心室頻拍や心室細動)がおこり、そのまま心停止に至ってしまうことがあります。

QT延長といわれた場合でも、QT延長の程度や、意識消失の有無、ご家族に突然死した方がいるかなどを総合的に判断して、治療方針が決定されます。

心雑音

心雑音は、心臓の中を通る血液が狭いところを通る時に聞こえます。

具体的には、

心臓の壁に穴が空いている場合(心房中隔欠損症、心室中隔欠損症)

心臓の中にある逆流防止の弁の動きがわるかったり、漏れがある場合などがあります。

弁膜症について、詳しくはこちら

 

また、機能性雑音(無害性雑音)といって、全く心配のない心雑音もあります。

実際、健康なお子さんでもおよそ30%の方で機能性雑音が聞こえると言われています。

機能性雑音はいつも聞こえるとは限らず、運動後や発熱時などで心臓から送り出される血液量が増えている時に聞こえやすくなりますし、体の姿勢によっても聞こえなくなります。

「心雑音があるけど、大丈夫」と言われている場合には、機能性雑音であると考えられます。

また、心エコーで検査しても異常がなかった場合は、心配しなくてもよい機能性雑音と考えられます。

 

代表的な機能性雑音には下記のような雑音があります。

Still雑音

ブーンという弦楽器を弾いたような音と表現される、収縮期の雑音です。横になっているときのほうが、座っている時よりも音が大きくなります。思春期までに聴こえなくなります。2)

静脈コマ音

ブーンブーンというコマの回る音のような雑音です。頸静脈の乱流によって生じます。横になっているときよりも、座っているときのほうが音が大きくなります。

末梢肺動脈狭窄

年齢的に肺動脈が細いために聴かれる雑音ですが、生後3ヶ月を過ぎる頃には肺動脈も太くなり、聴こえなくなります。

 

まとめ

学校の心臓検診で異常を指摘された場合にも、心配しなくてよいことがほとんどですが、注意をしなくてはいけない状態もあります。

二次検診を受けるように言われた場合には、必ず医療機関を受診しましょう。

当院では小学校1年生以上のお子さんの心エコー検査に対応しています。

 

参考文献

1)日本循環器学会/日本小児循環器学会合同ガイドライン 学校心臓検診のガイドライン 

2)UpToDate:Common causes of cardiac murmurs in infants and children

 

免責事項
  • この記事は、より多くの方に病気に関しての知識を深めてていただく目的で執筆しています。病状ごとに、その方に提供される最適な医療は異なるため、治療方針に関しては必ず主治医にご確認ください。
  • この記事は、信頼できる専門家の先生方が執筆、監修されているという観点、評価の定まっていない原著論文の引用を控えるという観点から、原著論文に加え、学会発行のガイドラインや、世界的に信頼され、参照されているデータベースであるUpToDateを積極的に参考文献として参照させて頂いております。
  • 記事の内容に不備、誤りなどありましたら、当院までご連絡いただけますと幸いです。正しい医療知識の普及のため、専門医をはじめとしたプロフェッショナルの方からのご意見・フィードバックを、是非ともお願いいたします。ご意見、ご指摘はこちらからお願いします。
この記事の執筆者

豊田かなでクリニック
院長:加藤友大

医学博士、日本内科学会 認定内科医、日本循環器学会 循環器専門医

2025年11月、「正しい情報に基づいた患者中心の医療」を実践するために、豊田かなでクリニックを開院。「おいでん病気ペディア」では、しっかりとした医学的な根拠に基づき、不必要に不安を煽らない情報の発信を行っています。

Web問診・オンライン予約・オンライン診療などのデジタルトランスフォーメーション(Dx)を取り入れ、「スムーズな体験で健康管理をもっと手軽に」するクリニックを目指しています。

今後は、AIトランスフォーメーション(AIX)を積極的に取り入れ、温かな医療で地域の皆様の健康を守る「未来の医療のカタチ」を創っていきたいと考えています。

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最終更新日:2025/5/9

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