心不全【循環器専門医が解説】
✔心不全は、息切れや足のむくみなどで気づかれることも多い病気です。
✔当院では循環器専門医が、きめ細かな薬剤調節と、個々人にあわせた心不全治療に努めています。
✔心不全で入院をされた方は、今後の入院を防ぐことが大切です。丁寧な診療により心不全入院を繰り返さないよう、サポートしたいと考えています。
心不全の治療薬について、詳しくはこちら
心不全とは?
心不全は、心臓が血液を体中に十分に送ることができない状態を指します。これにより、息切れをはじめとした様々な症状がでます。
当院では、循環器専門医がきめ細かな薬剤管理などを行い、心不全による入院を少しでも減らせられるよう、努めています。心臓超音波検査などを用いて適切に病態を把握し、病状に応じた心不全治療を行いましょう。
原因
心不全の治療は、原因によって方針が異なります。心不全になった時は、しっかりと原因を把握しましょう。
高血圧
狭心症や心筋梗塞(虚血性心疾患と呼びます)
心筋症(心筋自体に異常が生じ、心臓の収縮が弱くなったりします)
心臓弁膜症(心臓にある、逆流防止の弁がゆるくなったり、かたくなったりします。)
不整脈(心房細動など)
症状
息切れ
疲れやすさ
足のむくみ
咳やぜーぜーする呼吸(ときに喘息と間違われます。)
横(臥位)になると悪化する息苦しさや咳
食欲不振、吐き気
心不全の心臓の収縮力による分類
心不全は、左心室の収縮力により、下記のように分類されます。1,2,3,6)
HFpEF: heart failure with preserved ejection fraction
心臓の収縮力が保たれている心不全 (LVEF≧50%)
HFmrEF:heart failure with preserved ejection fraction
心臓の収縮力が軽度低下した心不全 (LVEF: 41-49%)
HFrEF:heart failure with preserved ejection fraction
心臓の収縮力が低下した心不全 (LVEF≦40%)
収縮能の低下だけでなく、拡張能の低下も伴うことが多いです。
日本においては、ステージCの69%、ステージDの51%がHFpEFと報告されています。6)
※LVEF: Left Ventricular Ejection Fraction:左心室の収縮力のことです。
心不全のステージ分類
日本循環器学会の心不全のステージ分類は下記のようになっています。(文献6)
ステージA(心不全リスク)
無症状であり、心不全の危険因子を持っていますが、採血や心エコーなどの検査では異常をみとめません。
心不全の危険因子としては、高血圧、動脈硬化性疾患、糖尿病、慢性腎臓病、肥満などが含まれます。
ステージB(前心不全)
無症状ですが、検査では心機能の低下みとめられます。例えば、採血でNT-proBNPなどの心不全マーカーの上昇や、心エコーで心臓の収縮力の低下などが認められます。
ステージC(症候性心不全)
心不全の症状があり、検査でも心機能の低下がみとめられます。
ステージD(治療抵抗性心不全)
有効性が確立されているすべての心不全治療を行っても、日常生活に支障をきたす心不全症状(NYHA心機能分類III度以上)がある状態です。
文献6:心不全ステージの治療目標と病の軌跡
NYHA心機能分類
心不全の重症度を、患者さんの自覚症状によって分類する指標にNYHA心機能分類があります。
文献6:NYHA心機能分類と身体活動
検査
血液検査
利尿薬をコントロールするためには、腎機能や電解質の値が大切です。また、BNPやNT-proBNPなどの心不全のマーカーも治療の役にたちます。
胸部レントゲン
心拡大、胸水、肺うっ血の有無を確認します。
心電図
虚血性心疾患をはじめとして、心臓に異常がないかのスクリーニングを行います。
心エコー検査
心臓の収縮力や弁膜症、壁運動異常の有無など、心機能を確認します。
参考:心不全の診断のプロセス
おおまかな心不全の診断のプロセスを、文献6より引用しました。イメージをつかんでいただければと思います。
文献6:心不全の診断プロセス
治療
心不全の治療は原因と症状によって異なります。まず、その原因を検査によって明らかにすることが必要です。例えば、心臓に酸素を送る冠動脈の狭窄などで心臓に十分な酸素が供給されていない虚血性心疾患では、カテーテル治療や手術などにより心臓にしっかりと酸素が供給される状態にする(血行再建)ことが大切です。心臓の弁に異常がある弁膜症であれば、心エコー検査などを用いてその重症度を決定し、適切なタイミングでカテーテル治療/手術を行います。
また、左心室の収縮が保たれている場合(HFpEF)、低下している場合(HFmrEF, HFrEF)では治療戦略が異なります。1,2,3,6)
生活習慣の改善
塩分制限(1日6g)、適度な運動、禁煙、節酒、体重管理など。心不全の状態が落ち着いた後は、適度な運動を行うことで体力の低下を予防することができます。主治医と相談のうえ、積極的に運動を行いましょう。
心不全のお薬
利尿薬
体のむくみをとるお薬です。利尿薬自体は症状の改善に有効ですが、心不全の根本的な治療にはなりません。病状に応じて、下記のような心臓を保護する作用のあるお薬との併用が必要です。よく使われるループ利尿薬は、予後改善効果よりも、症状緩和目的で使われます。そのため、下記の心保護薬の内服が大切です。
※利尿薬に分類されても、心保護作用があるものもあります。
ループ利尿薬:フロセミド(ラシックス)、アゾセミド(ダイアート)、トラセミド(ルプラック)
サイアザイド系利尿薬:トリクロルメチアジド(フルイトランなど)、インダパミド(ナトリックスなど)など
バソプレシンV2 受容体拮抗:トルバプタン(サムスカ)
スピロノラクトン(アルダクトン)などに関しては、カリウム保持性利尿薬にも分類されますが、ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬(MRA)にまとめました。
ACE阻害薬/ARB/ARNI
心臓の保護薬です。カリウムなどの電解質の値が上昇することがあり、定期的な採血などを行います。
原則として、これらの3つの薬のどれか一つを選択して用います。
ACE阻害薬とARBは、下の図のように同じ経路を阻害しますが、その作用部位が異なります。
また、ARNI(アンギオテンシン受容体ネプリライシン阻害薬)には、サクビトリル・バルサルタン(エンレスト)があります。ARBであるバルサルタンとネプリライシン阻害薬であるサクビトリルを1:1で結合含有させたものです。
βブロッカー
心臓の保護薬です。増量することで、ふらつきなどの副作用がでることがあります。ゆっくりと増量し、個々人に応じた容量を内服することが大切です。
カルベジロール(アーチスト:1.25mg〜20mgなど)や、ビソプロロール(メインテート:0.625mg〜5mgなど)が主に使われます。ビソプロロールには貼付薬(ビソノテープ:2mg〜8mg)もあります。
ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬(MRA)
利尿薬としての作用もありますが、心不全で使用される場合には、主に心臓の保護薬として使用します。カリウムなどの電解質の値が上昇することがあり、定期的に採血などを行います。
スピロノラクトン(アルダクトン)、エプレレノン(セララ)、エサキセレノン(ミネブロ)、フィネレノン(ケレンディア)など。
SGLT2阻害薬
糖尿病のお薬としても使われますが、心臓の保護作用もあります。加えて、腎臓の保護作用もあり、使用される場面が多いお薬です。このお薬は、血中のグルコースを尿中に排出します。そのため、尿検査では尿糖が強陽性となりますが、心配ありません。
ダパグリフロジン(フォシーガ)、エンパグリフロジン(ジャディアンス)、カナグリフロジン(カナグル)など
クラスエフェクトとは?
「クラスエフェクト」とは、同じ種類の薬が共通して持つ効果のことを指します。
例えば、ダパグリフロジン(フォシーガ)はSGLT2阻害薬と分類されます。ダパグリフロジンが心不全に対して効果があると臨床研究の結果から判明しています。その場合に、他のSGLT2阻害薬が、ダパグリフロジンと同様に心不全に対して効果があると推測はされますが、本当に効果があるかは、厳密にはその薬を用いた臨床研究を行わなくてはいけません。
SGLT2阻害薬の中でも、心不全に対して保険適応が通っているものといないものがありますが、これはクラスエフェクトを意識しているためです。2025/4現在では、ダパグリフロジン、エンパグリフロジン、カナグリフロジンは心不全に対する効果が証明されている、とUpToDateには記載されており、また、他の薬剤に関してもクラスエフェクトが期待される、との記載になっています。7)
SGLT2阻害薬が血中のグルコースを尿中に排出すると聞くと、痩せている人は栄養不足になってもっと体が弱ってしまうかもしれないと心配する方がいるかもしれません。年齢を重ねると体の機能が徐々に弱ってしまいます。医学的にはこのような状態をフレイルと呼びます。(詳しい定義は検索してみてくださいね。)フレイルの状態で、かつ心不全がある場合のSGLT2阻害薬の内服は、個々人の状態に応じた調節が必要と考えられています。日本循環器学会の心不全診療ガイドライン2025年では、フレイルがある場合でも心不全治療にSGLT2阻害薬は有効である、と考えています。6)今後の新しい知見が求められる領域です。
さて、では、腎機能が低下している方の場合、SGLT2阻害薬は有効なのでしょうか?日本循環器学会の心不全診療ガイドライン2025年では、eGFRが20 mL/ 分/1.73m2以上の場合に内服が推奨されています。6)こちらも、今後の新しい知見が求められる領域です。
HCNチャネル遮断薬
イバブラジン(コララン)は、脈拍を抑えることで、心不全の悪化を防ぎます。最大忍容量のβ遮断薬を含む
β遮断薬ができる限りの許容量を内服していて(最大認容量の内服がなされていて)、GDMT(ガイドラインに基づく標準治療)がなされている状況下で、有症候(NYHA 心機能分類≧2度)のHFrEF (EF≦35%)、かつ洞調律で心拍数>75拍/分の方に対して投与が推奨されています。6)
※ARNI、βブロッカー、ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬、SGLT2阻害薬の4つをThe fantastic fourと呼びます。これらの薬は、HFrEFにおいて、特に有効です。5)
心不全のお薬はたくさんの種類がありますが、どれも大切なお薬です。ひとつひとつのお薬が、それぞれしっかりとした医学的根拠(エビデンス)をもっています。薬の量が多くなってしまうこともありますが、主治医としっかりと相談し、よりよい心不全治療を受けましょう。
まとめ
心不全は適切な治療と管理により、より良い生活を送ることができます。早期の診断と治療が重要であり、症状があればすぐに医師の診察を受けることをおすすめします。当院では、循環器専門医が採血、心電図、心臓超音波検査などを用いて心不全の状態を評価し、適切な治療を行えるようにつとめています。
よくある疑問Q&A
心不全といわれてから、たくさんの薬を処方されました。全部必要ですか?
心臓の収縮力が低下している心不全の方(HFrEF、HFmrEF)には、特に下記のようなお薬がすすめられています。利尿薬、ACE阻害薬/ARB/ARNI、βブロッカー、ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬、SGLT2阻害薬と、多くの薬が心不全に対して有効であることが示されており、病状に応じて通常は複数の薬が併用されます。さらに、心筋梗塞などの他のお薬も飲むとなると、どうしても薬の数が多くなります。初めは薬の多さに戸惑うかもしれませんが、主治医としっかりと相談し、必要な薬の内服を行いましょう。
心不全といわれました。運動をしてもいいですか。
心不全のある方も、適度な運動をすることはとても大切です。心臓リハビリテーションという言葉を聞かれたことがあるかもしれません。これは、平たく言えば、心不全のある方は、無理のない範囲でしっかり運動をしましょう、ということです。
主治医と相談の上、積極的に運動を行っていただくのがよいと考えています。
心不全の場合、水分制限は必要ですか?
心不全の方で水分制限が必要かどうかは、個々人の状況により異なりますので、主治医の方とご相談いただく必要があります。2025年の日本循環器学会の心不全診療ガイドラインでは、1-1.5L/日の水分制限が状況により推奨されています。6)また、UpToDateでは、ステージDの重症の心不全や低ナトリウム血症がある方での水分制限が推奨されています。1)
心不全と言われ、入院したこともあります。日常生活で、今後の入院を防ぐために気をつけるポイントはありますか?
薬をしっかりと飲む、塩分を控える、高血圧に気をつける、適度な運動をする、などの他に、心不全が悪くなっている時には早めに受診し、適切に利尿薬などで心不全のコントロールをすることが大切であると考えています。
心不全が悪化すると、体の水分量が多めになり、息が苦しくなったりしてしまいます。例えば、足がむくむようになってきた、最近体重が増えてきた、などは身体に水分がたまり気味になっているサインです。また、息切れがひどくなってきた、夜に横になってねると息苦しいので、ソファーなどで座って寝ていたほうが楽、なども心不全が悪化しているサインです。
これらの症状がある場合は、すぐに主治医に相談しましょう。
利尿薬を使うと、夜のトイレの回数が増えた気がします。
一般的に使用される利尿薬の効果は短いため、夜間のおしっこへの影響は小さいと考えられます。
夜に利尿薬を飲むと、たしかに、夜に頻繁にトイレに行くことになってしまうかもしれません。基本的に、利尿薬は朝に飲むことをおすすめしています。また、心不全の状態によっては、利尿薬がないとどんどん心不全が悪化してしまうこともあります。その際には、やはり利尿薬をしっかりと飲んでいただく必要があります。お困りの方は一度主治医までご相談ください。
参考文献
1)UpToDate:Overview of the management of heart failure with reduced ejection fraction in adults
2)UpToDate:Treatment and prognosis of heart failure with preserved ejection fraction in adults
3)UpToDate:Treatment and prognosis of heart failure with reduced ejection fraction in adults
4)日本循環器学会 急性・慢性心不全診療ガイドライン(2017年改訂版)(日本循環器学会/日本心不全学会合同ガイドライン)
5)Bauersachs J. Heart failure drug treatment: the fantastic four. Eur Heart J. 2021 Feb 11
6) 日本循環器学会 2025年改訂版 心不全診療ガイドライン
7)UpToDate:Primary pharmacologic therapy for heart failure with reduced ejection fraction
免責事項
- この記事は、より多くの方に病気に関しての知識を深めてていただく目的で執筆しています。病状ごとに、その方に提供される最適な医療は異なるため、治療方針に関しては必ず主治医にご確認ください。
- この記事は、信頼できる専門家の先生方が執筆、監修されているという観点、評価の定まっていない原著論文の引用を控えるという観点から、原著論文に加え、学会発行のガイドラインや、世界的に信頼され、参照されているデータベースであるUpToDateを積極的に参考文献として参照させて頂いております。
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豊田かなでクリニック
院長:加藤友大
医学博士、日本内科学会 認定内科医、日本循環器学会 循環器専門医
2025年11月、「正しい情報に基づいた患者中心の医療」を実践するために、豊田かなでクリニックを開院。「おいでん病気ペディア」では、しっかりとした医学的な根拠に基づき、不必要に不安を煽らない情報の発信を行っています。
Web問診・オンライン予約・オンライン診療などのデジタルトランスフォーメーション(Dx)を取り入れ、「スムーズな体験で健康管理をもっと手軽に」するクリニックを目指しています。
今後は、AIトランスフォーメーション(AIX)を積極的に取り入れ、温かな医療で地域の皆様の健康を守る「未来の医療のカタチ」を創っていきたいと考えています。
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最終更新日:2025/5/10