心房細動は進行する?【病気の深掘りシリーズ】
このページでは、心房細動が進行するメカニズムについて、深掘りしています。
心房細動のより一般的な情報は、こちら
✔心房細動は、初期の頃は、発作性心房細動といって、短時間不整脈が続く、ということを繰り返しますが、徐々に持続期間が長くなり、やがては持続性、長期持続性心房細動へと進展します。
✔心房細動が持続すると、心房の電気的なリモデリングや構造的なリモデリングが起こることで、心房細動がより持続しやすい状況となります。
心房細動の分類
心房細動は、下記のように持続期間によって分類されます。
発作性心房細動 (paroxysmal AF)
持続期間が1週間以内のもの。例えば、数時間の心房細動を何度も繰り返したりします。
持続性心房細動 (persistent AF)
持続期間が1週間以上、1年未満のもの。
長期持続性心房細動 (long-standing persistent AF)
持続期間が1年以上のもの。
TRIGGERS AND SUBSTRATES
心房細動の発症と持続には、そのきっかけとなるトリガー(trigger)と、心房細動を持続させる心房の状態(substrates)の2つの要素が関わっていると考えられています。
心房細動は、肺静脈と呼ばれる、心房に流入する血管からの電気的な信号(トリガー)によって開始されます。心房細動の初期段階では、心房は比較的健康な状態にあります。そのため、心房細動は自然に止まり、普通の脈(洞調律)へと自然に回復します。しかし、心房が時間とともにリモデリングされると、心房細動は自然に終了しなくなり、持続時間が長くなります。そして、心房のリモデリングがさらに進行すると、心房細動を止めることがますます困難になります。
そのため、心房細動は早期の治療が大切となります。
心房細動の誘因(triggers)
肺静脈からの電気的な信号
心臓の左心房に流入する肺静脈という血管があります。この付近から生じる電気信号が引き金となり心房細動が引き起こされることが知られています。
そのため、心房細動のカーテル治療においては、肺静脈と心房の電気的な接続を切断し、心房細動の発症を抑えます。
心房の伸展(stretch)
心房の伸展は、ストレッチ感受性イオンチャネルを介して、肺静脈からの異常な電気信号の影響が大きくなると考えられています。そのため、僧帽弁閉鎖不全症をはじめとした、左心房に負荷がかかる状態によっても心房細動が起こりやすくなります。
肺静脈以外からの電気的な信号
稀に、肺静脈付近以外からの電気的な信号(Marchall静脈、上大静脈、冠状静脈洞など)が心房細動の引き金となっていることがあります。また、房室結節リエントリー性頻拍、心房粗動といった、他の上室性不整脈がトリガーとなることもあります。
自律神経の役割
心房のリモデリングには 交感神経(興奮を高める) と 副交感神経(リラックスを促す) の影響も関わっています。
交感神経が活性化すると、心房細動が促進されることはなんとなく納得できますね。実際に、交感神経刺激によって、肺静脈からの電気的な信号が増加することが知られています。
動物実験からの報告ですが、副交感神経の活性化によって、心房の電気的な特性(有効不応期)が様々に影響をうけ、これがリエントリーの形成につながるようです。
他にも、様々な事象から、自律神経が心房細動の発生に関与していると考えられています。1)
心房細動の持続
心房細動が持続すると、心房の変化(リモデリング)し、より心房細動を起こしやすい状態になると考えられています。「心房細動自体が心房細動をひきおこす。(AF begets AF. )」と表現されます。心臓は、電気信号により収縮を行っていますが、リモデリングには、心筋細胞の電気刺激に対する反応が変化する電気的リモデリングと、電気信号の伝わり方が変化する構造的リモデリングに大別されます。
電気的リモデリングの例
電気的リモデリングでは様々な変化があります。代表的な機序に、不応期の短縮があります。
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不応期の短縮
- 通常、心房は電気信号を受け取った後、一時的に反応できない「不応期」があります。
- 心房細動では、頻回に心房が電気的に興奮します。
- この頻回の電気的興奮によって、「不応期」が短縮され、異常な電気信号が次々と伝わりやすくなります。数分間の心房細動でもこのような変化が起こると考えられています。
- これにより心房細動が止まりにくくなります。
💡 ポイント
一度心房細動が発生すると、電気的リモデリングが進み、さらに心房細動が起こりやすくなる悪循環に陥ります。
構造的リモデリング
心房細動が長期間持続すると、心房の繊維化などが進行します。これにより、心房内の電気信号の伝わり方が一様でなくなり、心房細動が起こりやすい状態となります。
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線維化の進行
- 心房細動が持続すると、心房の線維化が進行します。
- これにより、電気的な信号の伝導に乱れが生じ、心房細動が起こりやすくなります。
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心房の拡大
- 心房が大きくなっている方では心房細動が持続しやすくなっています。
- また、心房細動が持続すると、心房が拡大してしまいます。
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細胞の変性・死滅(アポトーシス)
- 心房細動が続くことで細胞がダメージを受け、死滅する細胞が増えます。(例えば、TGFβと呼ばれるシグナルが増加することで、心筋細胞がアポトーシスを起こしてしまいます。TGFβは、繊維化にも関わっています。)
💡 ポイント
構造的リモデリングが進むと、心房細動が慢性化し、薬物治療や電気的除細動、カテーテル治療などを行っても心房細動を止めることが難しくなってしまいます。
遺伝との関係(体質)
心房細動を起こしやすい遺伝子が特定されており、ご家族に心房細動の方がいると、心房細動になりやすいことが知られています。
まとめ
心房細動は、放置するとどんどん進行してしまいます。早期発見と早期治療が大切です。
参考文献
- UpToDate:Mechanisms of atrial fibrillation
- この記事は、より多くの方に病気に関しての知識を深めてていただく目的で執筆しています。病状ごとに、その方に提供される最適な医療は異なるため、治療方針に関しては必ず主治医にご確認ください。
- この記事は、信頼できる専門家の先生方が執筆、監修されているという観点、評価の定まっていない原著論文の引用を控えるという観点から、原著論文に加え、学会発行のガイドラインや、世界的に信頼され、参照されているデータベースであるUpToDateを積極的に参考文献として参照させて頂いております。
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豊田かなでクリニック
院長:加藤友大
医学博士、日本内科学会 認定内科医、日本循環器学会 循環器専門医
2025年11月、「正しい情報に基づいた患者中心の医療」を実践するために、豊田かなでクリニックを開院。「おいでん病気ペディア」では、しっかりとした医学的な根拠に基づき、不必要に不安を煽らない情報の発信を行っています。
Web問診・オンライン予約・オンライン診療などのデジタルトランスフォーメーション(Dx)を取り入れ、「スムーズな体験で健康管理をもっと手軽に」するクリニックを目指しています。
今後は、AIトランスフォーメーション(AIX)を積極的に取り入れ、温かな医療で地域の皆様の健康を守る「未来の医療のカタチ」を創っていきたいと考えています。
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最終更新日:2025/3/15